おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2019.05.17column

出会いが嬉しい一日でした

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昨日5月16日最初のお客様は、3月から8月まで立命館大学を拠点に活動写真弁士について研究をされているアメリカのハミルトン大学の大森恭子先生とご主人、現在はメキシコにお住いのご友人ご夫妻の2組。大森先生のご主人、Steven G.Yaoさんもハミルトン大学で教鞭を執っておられ、私共は、この日が初対面。

後列の背が高いAustin Briggsさんは、イギリス文学の研究者で、映画にも詳しいということで大森先生が通訳を兼ねて案内して下さいました。奥さまのBunny Serlinさんは、どこへ行っても靴を脱がないといけないことに戸惑っておられました。5月4日の再放送で見た「チコちゃんに叱られる!」で、スリッパがなぜ登場したのかを放送していたことを思い出しました。番組によると、今から150年ほど前の明治維新の頃、海外からやって来た西洋人が靴のまま畳に上がるのでトラブルが多発。それで、東京で仕立て屋をしていた徳野利三郎という人が頼まれて作ったのが、スリッパ。形は今とさほど変わりませんが、靴の上に履くオーバーシューズのようなものでした。

京都観光中は、急な階段が多いことから、これも苦手に感じておられた様子。この京町家も元はもの凄く急な階段で、高所恐怖症の私は、手すり付きのゆったりした階段に改装するまで、2階に上がったのは下見に来た折りの一度きり。改装したおかげでBunnyさんにも2階の展示を見ていただくことができました。靴脱ぎや急な狭い階段も、旅行から戻れば懐かしい日本の思い出になることでしょう。

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Austin Briggsさんは、小さいころ、アメリカのサイレント映画の大スター、ハロルド・ロイドに何度か会ったことがあるそうです。「どういうわけか子どもの時にロイドの映画を見た記憶はないけれど、どっちかの手にいつも手袋をしていた。グロリア・スワンソン(アメリカサイレント映画時代の大女優で、代表作に『サンセット大通り』ほか)にも会った」と小さいころの思い出を話してくださいました。聞けば、お父様のお名前もAustin Briggsさん(1908-1973)で、とても有名なイラストレーターさんでした。イラストレーターのクラブがあり、大スターたちもそこに出入りしていたようです。お父様は、『レッドブック』『コスモポリタン』『サタデーイブニングポスト』『ニューヨーカー』などにイラストを描いておられました。とりわけコミック・ストリップ(新聞連載漫画)『フラッシュ・ゴードン』が有名。「Austin Briggsでネット検索するとヒットするよ」とおっしゃる通りで、ネットで見ることが出来たお父様の作品は、どれも大変に素晴らしい。

子どもの頃に見たお父様の仕事ぶりについては、「原画を父が描き、吹き出しや背景は他の人が描き、また父のところに戻ってきた。作品は家で保存していたが、地下室が浸水して、全てダメになってしまった」そうで、何とも勿体なく、残念な話。「マンガを描いていることを父は誇りに思っていなかったようだが、締め切りがあって、大変そうだった。『フラッシュ・ゴードン』のために毎週マンガを描いていて、締め切りに追われ本当に大変で、寝られなくなって北斎漫画に出てくる蛸のように、氷の女王に巻きついているようなポルノの絵を描いたこともあった」と思い出しながら、お話くださいました。

少しそれますが、ハロルド・ロイドの手袋について、喜劇映画研究会の新野敏也さんにお聞きしたところ、『化物退治』(1920年)の宣伝写真を撮影中、爆弾(導火線)で煙草に火をつけるポーズをしていて爆発し、右手親指と人差し指を掌半分も失い、しばらくは失明同然だったとも伝えられているそうです。Austin Briggsさんの話から、危険と隣り合わせで喜劇映画が撮影されていた往時の様子を窺い知りました。

おもちゃ映画の説明をして、いろいろ見ていただいたのですが、中にはアメリカの作品もあり、『キングコング』をご覧になって、「最初の『キングコング』は、ジェーンの胸がはだけたシーンだけが残っていない。それが日本のおもちゃ映画で見つかれば話題になる」と仰って。当館の『キングコング』をみていると、映画の良いところをかいつまんで売っていたことがわかりますが、残念ながら、その胸がはだけたシーンは含まれていませんでした(笑)。大森先生から「所蔵するアメリカの映画で詳細がわかっていない映像を知り会いの友人に観てもらえば、少しでも特定できるのではないか」と嬉しい提案をいただきました。

DSC09817 (2)さて、大森先生たちご一行と入れ違いに見学にきてくれた3人組。立体ビューアー(手前)、ポリオラマ・パノプティック(中央の緑色紙製と奥の白木製=いずれも連れ合い手作り。他にハーフミラーを使って、特撮合成に使うポリチパルも白木で作りました)を覗いて体験中。

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桑原弘明さんのScope『ピラネージ』も興味深く覗き込んで。彼らから、別のライトの当て方での楽しみ方のアイデアを貰い、その後の見学者に体験して貰っています。

会期中毎日、江戸川乱歩原作、塚原重義監督のアニメ―ション『押絵ト旅スル男』を上映していますが、桑原さんのTwitter記事によれば、16~22日東京の池袋東武6階1番地美術館で、18人の作家さんたちによる第14回池袋モンパルナス回遊美術館「乱歩先生とわたしⅡ」が開かれています。桑原さんは、『押絵と旅する男』の浅草十二階「凌雲閣」の最上階を表現したScope「RAMPO」を出展、穴から覗きながらライトを当てると、欄干の上の双眼鏡、もう一つの穴からライトを当てると人影が出るのだそうです。何と言うタイミングでの作品展示でしょう。近ければぜひとも覗いて見たい!!!

この日千葉県から「桑原さんの作品も見たい」とお越しの女性に、この展覧会のことをお教えし、「せめて私の目の代わりに見て来て」と伝えました。もちろん東京から来てくれた彼ら3人にも同様に。

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さて、2階ではScopeの他に、部屋を真っ暗にして映して楽しむフィルム幻燈機(右)、アメリカ製のポストカード・プロジェクター(中央)、アメリカのキーストン社製おもちゃ映写機(左)も体験して貰いました。たいていはおもちゃ映写機操作を面白がってくださるのですが、彼らは真ん中の美しい色彩の絵葉書を拡大して楽しむ道具がとりわけ興味深かったようです。紙を反転させて投影するのを見ていると、1933(昭和8)年に登場し、わずかな間で姿を消した紙フィルムと同じ。紙フィルムを思い付いた東京の印刷屋さんは、ひょっとしたらこの幻燈機にヒントを得たのかもしれませんね。中に手を入れると逆さになって写り、同様に顔を近づけると逆さになった顔が写ります。これ、体験すると面白いですよ。

DSC09821 (2)3人の若者は、実はあと2人の仲間と一緒に、マテリアルショップ「カタルシスの岸辺」を結成して活動しているのだそうです。以下は彼らの活動を紹介する資料から引用しつつ。

右がプランナー 海野林太郎さん。「SNSやオンラインゲームなど、ネット上にあるコミュニティやイメージがもつ特異な土着性や宗教性を参照し、映像やインスタレーション作品を制作。海中や街中、野外などの環境で立ち上げることで、普段は突出することのない電子メディアの持つ潜在的な性質を用いた描写ができないか試行している」。

真ん中が店長 荒渡  巌さん。東京藝大大学院美術研究科先端芸術表現選考修了。「世界を覆い尽くす資本主義体制下で生産される様々な事物と『私』との間に広がる断絶に傾注し、制作」。サロン・ド・プランタン賞受賞。

左が実制作 高橋 銑さん。東京藝大彫刻科卒。「近現代彫刻の保存・修復を学んだ経験を基に、人間存在の営為をテーマに彫刻、映像、インスタレーションなど様々なアイデアで制作を展開。主な修復に高松次郎や吉原治良の作品など」。5月19日まで、京都府立植物園で開催されているグループ展「生きられた庭」にも出展されています!

他の二人はレベルデザイナー 田中勘太郎さん。東京藝大美術研究科先端芸術表現専攻在籍。現代探検美術家。「特異な行為の反復や環境から育った『ここにはない場所』を彫刻しながら、物語や現象を採取し、それを元に制作」。

もう一人のメンバー、エンジニア 高見澤峻介さん。東京藝大映像科メディア映像専攻在籍。「映像を支えている技術、環境、デバイスを『器』と呼び、全ての映像は器なくして成り立たないという考えのもと映像とデバイスを制作」。

 才能ある若い彼らが、展示物や連れ合いの説明にとても関心を示し、興味を持って見てくれたので、その出会いをとても嬉しく思いました。この日の見聞が将来の彼らの活動に少しでも活かされると良いなぁと思います。他にも岐阜県からお越しいただいたり、遠方からのお客さまが相次ぎ、楽しい一日でした。

 【後日追記】

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ミュージアム開館満4年の記念日18日に東京から来てくれた可愛らしい芸術家の安西あやのさん。「京都府立植物園で展示されている高橋 銑さんの作品を見に行くなら、おもちゃ映画ミュージアムも見学してくると良いよ」と海野林太郎さんから勧められたのだそうです。丁度開館記念イベント終了したところだったので、いきなり集合写真のシャッターを押す役をお願いして、快く引き受けてもらいました。しばらく封印していた私の得意技発揮(笑)。おしゃべりも楽しくて、帰り際に彼女の方から握手を求めて下さったことが嬉しくて、嬉しくて!!!

今日、荒渡さんに教えて貰ったのですが、彼の作品テーマから幻灯機や映写機をリサーチする中で当館のことを知り、2年越しでお友達を誘って見学してくれたのだそうです。この出会いも宝。いつか、彼ら、彼女らとコラボして何かできたら良いなぁと、早速夢見ています。

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