おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2021.03.11column

弁士を懐かしく覚えておられるお客様

1月6日から開催している活動写真弁士に関する資料展に3回通して見に来てくださった80歳代の男性に、約束通り「底抜けドン助」5勺お猪口を進呈しました。「酒は飲まんけど」と仰いましたが、「おつまみでも入れて楽しんで下さい」と申しました。初めておいで下さったのは昨年12月24日。「子どもの頃、(奈良県)大和高田の映画館で無声映画を観たとき、弁士と楽器を演奏する人3人ぐらいがいたのを覚えている」と話して下さいました。それから、この弁士の資料展を楽しみにして毎月足を運んで下さいました。「4月から『忠臣蔵』の展示をする」とチラシをお渡ししましたら、「来月も見に来るからな」と約束してくださいました。とても嬉しいです‼

きっとこの方のように、子どもの頃観た映画の記憶をよく覚えておられる年配の方は多いと思います。そういう方達にこそ往時を思い出しに、見に来て貰いたいのですが、いかんせん、新聞記者の人たちが余り関心を寄せてくださらなくて。ネットにアクセスできない人たちにとって、新聞などの活字媒体は貴重な情報源なのですが、目に触れなければ、知ってもらうことも難しく。今回の展示は、阪妻などのスターを描いた双六、懐かしい各地の映画館での興行を知らせるポスター、人気活動写真弁士の声を録音したレコード、出版物やメンコなどの玩具等々たくさんあって、回想法にも有益だと思うのですが、届いて欲しい人たちに届けられないもどかしさを感じています。情報発信をもっと工夫しなければならないと思っています。

さて、昨日お越しの島田さんは来月で96歳。娘さんが付き添って来館されましたが、至って元気そのもの。「最近のことはみんな忘れているけれど、弁士のことはずっと覚えてはるのん。月形半平太が大好きなん。お父さん、東山三十六峰やったげて」と娘さんが促すと、

……東山三十六峰、静かに眠る京洛の巷に、尊王大儀の声高まり、やがてそれが攘夷となり、倒幕と変じ、天下騒然として風雲益々急を告げんとする嵐の巷に、ここに熱血溢れる勤王の志士、月形半平太があった。

(略)「あれ、月さま、お目覚めでござんすか?」「おおっ、梅松か。良い月じゃのぉ。そなたの心の、この月のようじゃ。されど、月形、明日をも知れぬ儚い命」「あれ、月さま。またしても、そんな悲しいこと」「嘆くではない」(略)(略)最後は「剣劇の響き」で終わった……

と流れるように語ってくださいましたが、悲しいかな全て書き取ることが出来ませんでした。奈良県の桜井にあった映画館に年の離れたお兄さんが観に連れて行ってくれて、活動弁士が言っているのを「恰好ええなぁ」と思って聞いていたそう。音楽があったのかは覚えておられないほど、弁士の熱演に魅了されたようです。活弁の本が売っていて、それらを夢中になって読んで覚えた結果が、95歳の今でも鮮明に記憶されていることに。寝るときに「ヤーヤー我こそは…」と言ってから眠りにつかれる毎日だそうです。時代劇が全盛だった時代の良き思い出を今も大切にされています。

記憶にあるのは、時代劇の花形スター阪東妻三郎演ずる『月形半平太』でしたが、大河内傳次郎が主演する『月形半平太』(1933年)のおもちゃ映画を観てもらいました。「こういうところがあるのって、ええもんですね」「断片でも残っていて良いですね」とお二人に言ってもらいました。

片岡一郎コレクションで展示している1冊に『活辨時代』(御園京平、1990年、岩波書店)があり、その中の資料編に載っていた説明名文句集の国井紫香『月形半平太』を以下にご紹介。

……妖雲低迷なして嵐の前の静けさ、大乗院の大仏間には同志の者一人とてなく、なにかしら無邪気な味が仏間の灯を消す。

 突、月形の背後に白刃一閃、晨鶏再び鳴いて残月薄く、征馬しきりにいなないて、行人出づ、一波立って万波を捲き起す。殺陣殺調の幕は開かれた(音楽)。

 獅子奮迅の勇鼓して、あたるを幸い縦横無尽、斬って斬りまくり衆寡敵せず致命の痛手。「月形ァー」「早瀬か?」流石智勇兼備の月形も今はこれまでと腹をかッ割き、したたる血潮鷲掴み、かたえの柱に「死して護国の鬼とならん」としたため終れば早瀬辰馬の介錯にほほ笑み死んでゆく(笛の音)。

 ああ天下の雄志月形よ、汝死すともその名は死せず、皇国の礎となり(笛止る)、維新を飾る回天の志士、月形半平太。……

大人も子どもも活動弁士が語る時代劇に夢中になっていた様子が伝わりましたが、この最後の一行を書き写しながら、こうしてお国のために死ぬことを美化して日本人の頭に刷り込みながら、やがて大きな犠牲を払った戦争へと突き進んでいったのだと思いました。とりわけ「回天の志士」というのが、太平洋戦争で大日本帝国海軍が開発した特攻兵器人間魚雷「回天」を想起して鳥肌がたちました。

時間があれば、阪妻の『尊王』のおもちゃ映画も見せてあげたかったです。

前掲『活辨時代』に載っている伍東宏郎の『尊王』から、

……時恰(あたか)も幕末の頃、絃歌(げんか)さんざめく京洛の夜は更けて、下弦の月青く、東山三十六峰静かに眠る深き夜の静寂を破って突如起る剣劇の響き(音楽)。

「イエッ!新選組か。長藩勤王の志士龍造寺俊作、天青助定の斬れ味見せてくれよう」

 その頃、同じ祇園の境内に瞬く星の光を浴び語る者こそ、新選組隊長近藤勇と祇園の名花雛菊であった。……

ご高齢でも元気な方がたくさんおられます。ぜひそういう方たちに展示を見ていただいて、懐かしい日々を思い出してくださる場になれば良いなぁと思います。コロナ禍でお出かけにくい状況ではありますが、ご案内いただければ嬉しいです。

 

 

 

 

 

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