おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2022.06.09column

海外の研究者との交流が嬉しくて

6月4日に、当館で作った『おもちゃ映画で見た日中戦争』をご覧いただく場を設けました。コロナ禍でSTAY HOMEが声高に叫ばれ、その後も感染拡大に翻弄され開店休業状態だった中で、手元にあったおもちゃ映画や記録された映像の数々を時系列で並べて作ったのがこの作品でした。その過程でたくさんの研究者やジャーナリストの皆さんに助言をいただき、その成果を3月の大阪アジアン映画祭で初上映したのですが、お仕事の都合でご覧いただけなかった方をお招きしてご意見を伺うことで、さらにブラッシュアップしようと考えました。

早速頂いたご意見を反映させて編集作業をしています。19日は天宮遥さんの生演奏付きで一般の方を対象にご覧いただきますが、ありがたいことに予約で満席になりました。キャンセル待ちの方もおられるぐらいに広く関心を寄せてくださっているのは、間違いなく2月24日に突如始まったロシアによるウクライナ侵攻の影響で、かつて日本が中国大陸で展開していた侵略戦争と重ねてご覧になる方が多いからでしょう。

京樂真帆子・滋賀県立大学教授から頂いたメールに「ウクライナ戦争の様子を見ていると、日本の満州進軍がこのように見られていたのか、と考えてしまいます。私の専門で言いますと、ロシアには『兵士の母の会』があるそうで、まさに日本の国防婦人会です。だからこそ『おもちゃ映画で見た日中戦争』の意義があると思います」と書いてくださいました。

さて、この日の上映会には京都大学人文科学研究所所属の韓国出身金智慧助教と台湾出身の外国研究員林立萍さんが参加されました。参加した先生から「これはプロパガンダなのだということを最初に説明する方が良い」という意見が出てそのように編集しましたが、本音で韓国や台湾の方からご覧になった感想はどうだったのか気になるところです。

4日と5日は日本映像学会第48回大会が京都大学で開催され、5日は、学会に参加した若い研究者二人が帰りに立ち寄ってくださいました。

右から台湾出身の林旻儒さん。東京大学大学院総合文化研究科表象文化論修士課程。中央が中国内モンゴル出身の韓瑩さん。同じく東京大学大学院表象文化論博士課程。韓さんは第48回大会で発表もされたのだそうです。指導教官の韓燕麗教授に、「帰る前に展示を見ていくと良い」とアドバイスを受けて来館して下さいました。今は「川喜多長政と中国―映画の国際交流を求めてー」をしていて、それを見るよう勧めてくださったのです。

川喜多長政は1939年3月に中支那派遣軍参謀から、中国中部・南部に映画機構を設立し、その代表になって欲しいと依頼されますが、軍がやたら口を出さず、ある程度思うまま運営を任せて欲しいという条件で受諾します。そうして設立されたのが中華電影でした。満洲映画協会(満映)とは真逆の運営方針でした。川喜多は太平洋戦争に突入した後も、可能な限りその方針を貫き、中国人スタッフによる中国人のための映画を作り続けました。今回の展覧会は、たとえ国と国の関係が難しくなったとしても、人と人の草の根の交流は途切れることなく大切にしていかなければならないと思い、川喜多の生き方を知って貰いたいと企画しました。中国では中華電影のことは長く語られることがなかったそうですが、徐々に変わってきているようです。

中国と台湾出身の若い二人が、仲良く来てくださった光景が、私には何よりも嬉しく思いました。写真は出身地を世界地図にマークして下さっている様子。いつかお二人にも、研究成果を発表していただければ嬉しいと話しました。

川喜多長政とかしこ夫妻は長年にわたり、写真にも映り込んでいるような優れた名作映画の数々を欧州から日本に紹介し、日本の優れた映画を海外にも紹介してくださいました。かしこ夫人は1955年から2年間、世界の映画事情を研究し、BFI(英国映画研究所)やパリのシネマテーク(フィルムライブラリー)に通って古典的な名作を勉強し、そこで真剣に学ぶ将来の映画人たち姿を目の当たりにして、フィルム・ライブラリーの重要性を痛感されました。その経験が現在の国立映画アーカイブなどに繋がることに。私どもがやっていることも、その末端として少しでも世の中の役に立てば幸いだと改めて思います。

翌6日は、彼女たちの指導教官である韓燕麗教授が来館。4年8か月ぶりの再会です。中央は、4日に『おもちゃ映画で見た日中戦争』をご覧いただいたばかりの高木博志・京都大学人文科学研究所教授です。韓先生が人文研で学ばれている時には、あちこち出掛けたそうですが、再会は久しぶりなのだそうです。

韓先生とのおしゃべりはとても楽しくて、あっという間に2時間が経っていました。近々、先生が書かれた『ナショナル・シネマの彼方にて -中国系移民の映画とナショナル・アイデンティティ』(戦後香港の映画製作に川喜多が協力した経緯と『蝶々夫人』という作品分析の部分があり)と、山口淑子さんの『李香蘭 私の半生』の中国語版(香港出版、繁体字)を送っていただけることになりました。届き次第展示にも加えさせていただきます。

韓先生、ビデオメッセージを送ってくださった蔡剣平さん、その後来館された大阪大学の劉文兵先生、明治学院大学のローランド・ドメ―ニグ先生のように、優れた研究者たちが川喜多長政について研究を重ねておられることを、今回の展示を通じて知ることができました。先生方の研究成果も大いに楽しみです。

この日一番驚いたのは、韓先生のピアスを見た瞬間でした。同じデザインのイヤリングを私も持っているからです。2019年たまたま来館された本間さんという女性が「アクセサリーを作るのが好き」と仰ったので、早速注文して作って届けてくださったのが、指さしているお気に入りのイヤリングでした。この広い世の中で、同じ手作り作家さんによる同じデザインのアクセサリーと出会う確率って、どんなでしょう?

二人して「気が合う!」と記念写真を撮りました。先生にお願いして少し若作りに加工してもらった写真です。恥ずかしいですが、そのまま思い出にアップします。韓先生とこうして遊べることが信じられないくらい嬉しくて、楽しい時間でした。もちろん、研究者の視点を忘れておられず、展示で新たな資料の存在に気付かれましたので、私はそのお手伝いができればと思っています。映像も、資料も活用されてこそ、という思いはきっと共通するでしょう。

 

 

 

 

 

 

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