おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2023.06.19column

寄贈本の紹介

昨日、正会員でもある映画研究者の紙屋牧子さんが来館。展示中の紙フィルムを興味深くご覧頂きました。その折に、上掲写真の早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点公募研究成果報告『栗原重一とその時代 エノケン喜劇を支えた音楽家』を寄贈頂きました。研究は2018年から2021年まで実施され、まとめて発行されたのが2022年2月28日。6名の研究者のお名前が連なっていますが、そのうち紙屋さん始め4名が存じ上げている方でした。皆さん、それぞれご活躍で何より。

因みに、当館には、おもちゃ映画の『エノケンの森の石松』(1939年、東宝東京、中川信夫監督)が1本あるだけですが、画質が悪く、長さもわずか36秒ということで、とても視聴に耐える映像とは言い難く。中川監督とエノケンがタッグを組んだ第1作で、エノケンと柳家金語楼の掛け合いが絶品でYouTubeで見ることが出来ます。今見ても十分面白いです。公開時は74分。

栗原重一(1897―1983)という人は、昭和初期にエノケン楽団、松竹キネマ演芸部、トーキー初期のPCL映画製作所などで活躍した音楽家で、日本のオペレッタやジャズ受容に大きな役割を果たした人物なのだそうです。早稲田演博には彼の旧蔵楽譜の一部である「エノケン楽団・旧蔵楽譜」が約1000点あり、その調査研究の成果をまとめた冊子です。これらの資料は、2016年と2018年に古書店経由で演博が購入されたもの。先ずはバラバラに散逸することなく、まとめて保存され、このように専門家によって調査が進められたことを喜びたいです。

この調査報告書のことを昨夜SNSで書いたところ、執筆者のお一人、音楽評論家の毛利眞人さんから「栗原重一旧蔵楽譜、高校生の時に瀬川昌久さんのコレクションとしてNHKの番組で見たときから詳細を知りたいとずっと念じていました。ご縁があってその願望をある程度、形にすることができました」とのメッセージを頂戴しました。高校生の時から関心を寄せておられたこと自体も凄いなぁと思います。その瀬川さんに毛利さんらがインタビューする公開研究会の記録や、毛利さんが作成された資料も載っていて、素晴らしい研究報告書です。

ダメもとで毛利さんに、『エノケンの森の石松』の楽譜が含まれていなかったかお尋ねしたところ、「栗原の旧蔵楽譜は舞台用や受け入れ楽譜も混在していて、その中で映画に用いた譜面は決して多いとはいえません。海外曲が多く、『森の石松』に関連した楽譜は今のところ見つかってなかったと記憶します。」と返事を頂戴しました。お忙しいところ、教えて頂き感謝です。

編集責任者は現在慶應義塾大学准教授の白井史人さん。下掲のように2017年7月15日に「1920年代の映画館楽士と楽譜-早稲田大学演劇博物館所蔵『ヒラノ・コレクション』の分析と活用」の演題で研究発表して頂きました。この「ヒラノ・コレクション」も、同様に早稲田演博が古書店から購入されたものでした。白井先生にはこの他にもいろいろお世話になっていることもあり、こうしてご活躍の様子を拝見できることは、とても嬉しいことです。

さて、紙屋さんと言えば、紙屋さんが編集を担当された成果報告書『映画史家・塚田嘉信~そのコレクションと業績~』もあります。今年3月末に国立映画アーカイブの主任研究員入江良郎さんから寄贈頂いた383ページにも及ぶ大著です。

研究代表者が入江さんで、当館展示でいつもご協力いただいている本地陽彦先生や、昨年8月2日に国立映画アーカイブにお邪魔した折り、初めてご挨拶した佐崎順昭さん、常日頃からお世話になっている同主任研究員岡田秀則さんと大傍正規さんのお名前も連なっています。正式には科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)「塚田嘉信コレクションを起点に初期映画史を読み直す」成果報告(2020―2022年度)。いやはや大変長い名称です。圧巻は83頁から260頁に及ぶコレクション調査報告。佐崎さんによる地道で細かい作業の積み重ねには敬意を表します。本地先生の「塚田嘉信氏旧蔵資料に就いて(私的回想と共に)」と「「塚田嘉信氏年譜」も如何にも先生らしい筆致で。先日メールのやり取りで、ご家族の介護をしながら研究に臨まれていたことを知り、心して読まねばと思っています。入江さんも昨年5月に当館で吉澤商店について発表して下さいましたが、今回も吉澤商店について研究成果が載っていますので、ゆっくり読ませていただき学ばせていただきます。

参考に目次を挙げれば

・映画史家・塚田嘉信-そのコレクションと業績

 塚田嘉信氏旧蔵映画資料の研究について(入江良郎)

・解説・資料

 よみがえる塚田嘉信コレクション―資料受け入れをめぐって(岡田秀則)

 塚田嘉信氏旧蔵資料に就いて(私的回想と共に)(本地陽彦)

 塚田嘉信氏年譜(本地陽彦)

 塚田嘉信旧蔵(創刊号を中心とした)雑誌コレクション調査報告(佐崎順昭)

 塚田嘉信書誌(佐崎順昭編)

 佐々木裕子氏インタビュー(本地陽彦編・笹沼真理子文字起こし・整文)

・論考

 草創期ににおける映画と皇室の関わり-塚田嘉信が遺したものから考える(紙屋牧子)

 『南極探儉活動寫眞』(1912)関連資料の同定研究―浅草国技館における初回興行と地方興行の諸相(大傍正規)

 「北清事変活動写真」と「新製活動写真」―最古の映画商社・吉澤商店における映画製作の起源(入江良郎)

 

上で紹介した2冊の研究成果冊子は、お声がけいただければ館内でご覧頂けます。どうぞ、研究にお役立て下さい‼

 

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