2025.09.18column
今日は9月18日
今日は9月18日。昭和史をあまり学校で習ったことがない多くの日本の人々にとっては、365日あるうちの1日ですが、中国の人々にとっては特別な日。柳条湖事件が起こった日です。1931年9月18日、中国の東北地方の奉天(現・瀋陽)にある柳条湖を通る南満州鉄道が爆破。本当は日本の関東軍が仕掛けたにもかかわらず、中国側の張学良が起こしたとして、鉄道防衛を理由に中国軍と交戦開始。これを機に関東軍は軍事行動を拡張していきます。そして、1932年3月に「満洲国」を建国し、1937年日中の十五年戦争に突入します。
今年8月15日、戦後80年を迎えた日に中国の黒竜江省から来館された女性の研究者の人と話をしたことから、この日のことがずっと頭にありました。彼女曰く「子どもの頃から毎年9月18日、 “九・一八事変”の記念日には街中に防空警報が鳴り響きました。その音は“この日は侵略が始まった日である”と私たちに深く刻み込ませます。私たちにとっては、戦争がどのように終わったかを記憶する以上に、戦争がいかに始まり、人々が侵略によってどれほど苦しんだのかを決して忘れないことの方が大切なのです」。
たまたま今日の夕方TVを見ていましたら、19時からのNHKで、



今日が柳条湖事件から94年であることを紹介していました。でも、その取り上げ方は、テレビ画面右上に書いてある通り「反日感情 高まりやすい日、現地日本人の間で不安続く」というものでした。昨年日本人学校に通う男の子が殺されたことを報道しながら、中国にいる日本の人たちが、「大きな声で日本語を話さないこと」「一人で外出しないこと」など身の安全を図る防衛のことばかりを取り上げていました。この事件がどういうものであったのかを説明する視点が随分と端折られていたと感じました。彼女が言うところの「戦争がいかに始まったか」、加害の端緒を日本人が知ることが隣国との友和を進めるのに大切だと思います。
確かに、ニュースの映像から、彼女が話していた通り、街中に防空警報が鳴り響いていました。日本は国内外の人々に対して、しっかりと先の戦争のお詫びや補償をせず、あいまいなままに戦後80年過ごしてきたように思います。戦争や武力による政治解決がいかに悲惨な結末を生むかを歴史が証明しています。日本人の多くがその反省から戦後をスタートさせました。日本は敗戦後必死に働いて、悲惨な状況から這い出て奇跡的な復興を成し遂げました。過去の歴史を知ることは重要です。が、それを教訓にして将来の世界平和を考えなければならない時、負の歴史である戦争で日本人は加害者であったことを見直す日として、このニュースを受け止めなければなりません。
戦争を経験した人たちが少なくなり、戦後生まれが多くなった今、戦時中の教育の在り方や愛国心、またマスコミが戦争を煽ったことなども含めて反省し、二度と同じ過ちを繰り返さないことが大切です。今、ウクライナやパレスチナでの覇権戦争や帝国主義的な戦争が起こっている時代だからこそ、冷静に過去の歴史を学びたいと思います。
第21回大阪アジアン映画祭のオープニング作品は、『万博追跡』(台湾、1970年作品を今年2Kレストアしたバージョン)でした。

国際的大女優のジュディ・オングさんが主役(中央の黄色の洋服姿)の作品で、実際にこの作品を観られたのは、世界初上映となった8月29日のこの日だったそうです。それほど彼女が売れっ子で超多忙だった若い頃の作品。ミュージカル、ラブロマンス、ミステリー、それに懐かしいEXPO’70の各パビリオンの様子も振り返ることができた楽しい作品でした。

映画の中で蒋介石の「以徳報怨」という言葉が台湾の人の口から聞かれました。「徳をもって怨みに報いる」という意味です。台湾に残した日本の資産を没収するだけで賠償請求しなかったのは、蒋介石なりの戦略だったのかもしれませんが、その思想が1970年当時の台湾の人々に浸透していたことがうかがえました。過去を振り返り教訓にしつつも、未来をみながら互いを尊重し、手を携えて歩んでいく方が誰にとっても幸せだろうと思います。

9月17日は日中戦争に従軍し、1938年9月17日、28歳の若さで彼の地で戦死した山中貞雄監督の命日でした。おもちゃ映画ミュージアムを運営するようになって、これまで映画と無関係だった私も、9月17日はしっかり頭のカレンダーに刻まれています。その翌日が柳条湖事件の日だということを、黒竜江省から来館された彼女との会話を通して頭のカレンダーに刻みました。戦争さえなければ、山中監督は、どのような優れた映画をつくられたことだろうかと思います。
同じように未来を奪われた人が、日本だけでなく中国にも、たくさんおられて、そして戦争の犠牲者は今もウクライナとロシア、パレスチナとイスラエルというように世界中におられます。地球全体が急速に進む温暖化で危機に瀕しているというのに、全地球で取り組むことをしないで、戦争を続けている愚かさ。「何をされるか」とただ不安を煽るだけでなく、謙虚に歴史に向き合いながら、相互理解に尽力することが本当に大切だと思うのです。


