おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2025.09.30column

映画アーカイブと修復に尽力する人々との新たな交流(1)

 

9月21日に大阪・関西万博のイタリア館で開催されたエミリア・ロマーニャ州にあるCineteca di Bolognaが企画した特別イベントにご招待いただきました。エグゼクティブ・ディレクターのエレナ・タマッカーロさんの発表を聴講し、その後挨拶を交わすことができました。ボローニャ・チネテカは、ヨーロッパ有数の映画機関で、そこで活躍されているエレナさんと知り合えたことは私どもにとって大変光栄な出来事でした。1962年に市立アーカイブとして設立され、今やヨーロッパ有数の映画機関となり、チャップリンやフェデリコ・フェリーニ、セルジオ・レオーネなど名作の修復に画期的な仕事をしています。

ボローニャと聞いて、今年初めにボローニャ復元映画祭へのコンタクトを都留文科大学のヨハン・ノルドストロム先生を介して試みましたが、エレナさんの所属とは別組織だったとわかりました。ボローニャの映画祭はいくつもの映画館で上映されるようですが、10月に行くポルデノーネ無声映画祭は大きな劇場1箇所で朝から晩まで皆さんが詰めてご覧になるのだそうです。初めて行く私は、そうした違いをお話をしていて知りました。ちなみに連れ合いはポルデノーネ無声映画祭は『何が彼女をそうさせたか』『特急三百哩』『突貫小僧』と3回上映して頂く機会に恵まれ、今回は4回目と誠にありがたいことです。

秋分の日の23日、エレナさんが、スケジュールを調整して来館してくださいました。

通訳と案内は共通の友人の柴田幹太さんが引き受けて下さり、翻訳アプリのお世話になることもなくコミュニケーションが図れ、とても良い時間を過ごすことができました。

撮影されているのはフェリーニの『アマルコルド』(1973年)のポスター。隣にハンガー掛けしているのは2015年春の第1回と今年5月の第9回ナイトレート・ピクチャー・ショーのTシャツ。ロチェスター大学ジョアン・ベルナルディ教授からのプレゼントです。この映画祭は、アメリカニューヨーク州ロチェスターにあるジョージ・イーストマン・ミュージアムで毎年開催され、1920年代~40年代製作の現存している可燃性フィルム=ナイトレート・フィルム=で上映する極めて珍しい上映会です。お話をしていて、彼女はナイトレートフィルムへの関心がとても高いと感じました。初期の映像作品の保存が絶えず頭の中を占めておられるのでしょう。

そんな仕事の一つが、指さしておられる稲畑産業様からお借りしているパネル『家族の食事』。シネマトグラフを日本に持ち込んだ稲畑勝太郎が最初に構えた染料店で、リュミエール社が派遣した映写技師兼カメラマンだったコンスタン・ジレルが稲畑一家を撮影した作品の一コマです。パネルに添えられているキャプションには「映画<明治の日本>より」とあり、その撮影時期は「1897年1月9日~10月末の間」とあります。128年前の撮影ですね。21日のエレナさんの発表でも、綺麗に修復された映画<明治の日本>の別の作品の一部を見せて貰いました。ところで、この稲畑染料店を調査した結果、当館より少しだけ西に行った智恵光院通にあったことがわかり、その碑を立てる計画を練っています。

2階展示棚に置いているドイツ製の「Toyfilm」に関するお話も興味深かったです。

ドイツでは、石を用いて印刷したリトグラフの「Toyfilm」が家庭用に販売され、それを見るための手回しの映写機も販売されていました。当館にあるドイツ製のおもちゃ映写機は、これらのフィルムを見るためのものです。日本のように、上映後にフィルムを切り売りして、それを家庭で見ていた「おもちゃ映画」とは、ニュアンスが異なります。エレナさんによれば、前のポルデノーネ無声映画祭ディレクターだったディヴィッド・ロビンソンさんは、チャップリンの研究者ですが、「Toyfilm」のコレクターでもあり、今ボローニャのアーカイブでは、こうした「Toyfilm」も映画の歴史からみると大切ということで、その修復を手掛けているのだそうです。上掲写真の「Toyfilm」は随分前に海外から購入したものですが、パリパリになっていて破損が怖く、実際におもちゃ映写機にかけて投影して見たことはありません。

随分前から知り合いだったかのような私たち。好きな写真です。

エレナさんが撮ってくださった写真。私は演奏と活弁付きで上映した「おもちゃ映画」を集めて編集した「阪東妻三郎」と「ちゃんばら時代の女たち」の話をしながら、何とか公的な映画博物館を作ってもらいたいと呼び掛けていることを話しました。マンガ、アニメ、ゲームは経済効果があると支援策が講じられているようですが、映画はそこから漏れている日本の現実があります。

エイドリアン・ウッドさんのおかげで、素敵なエレナさんと知り合うことができ、柴田さんの尽力で当館にも来てもらうことができました。

本当は一緒に晴明神社大祭のお神輿行列を見るはずだったのですが、13時に神社を出発した行列の音は聞こえども、なかなかミュージアムの前に到着せず。二人は音のする方へ神輿行列を追って行かれました。途中、近くの甲冑工房「鎧廻舎」さんで見学もさせて頂き、兜をかぶる体験も。この日は玄関先に下げた提灯に書いてある「千両ケ辻」のイベントが周辺一帯で繰り広げられ、通常非公開の「鎧廻舎」さんも特別公開。エレナさんも日本文化に触れて体験できた良き思い出になったことでしょう。

16時50分ごろに待ちに待った行列が到着し、総勢500人もの人々がミュージアムの前を過ぎていきました。

5月11日にも今宮神社の行列(下掲)が同じように過ぎて行って、

担ぎ手の中に柴田さんの姿を見つけてお互いにびっくりしました。お神輿が出ると聞けばソワソワする柴田さん、それは私も同じ。エレナさんと一緒に見ることはできませんでしたが、入れ違いにスペインから来てくださった3人に声掛けをして見学しました。祭に参加している人々が「こんなところに新しいミュージアムがある!」と興味深げに見ていってくださるので、認知して頂ける絶好の機会に。春と秋の大祭で、行列が2度も通る町家に拠点を構えられたのが何よりです。

エレナさんからは、「火曜日にご一緒した時間を、私もとても嬉しく思っています。あなたにお会いし、素晴らしいミュージアムを訪れる機会をいただけたことを、とても幸せに、そして光栄に思います。ミュージアムの前を通る行列を一緒に見ることができなかったのは残念でしたが、その場に居合わせることができたのは、私にとって素晴らしい経験でした。ありがとう Grazie」とメールが届きました。「いつか再会の花が咲くことを願っています」と結んだ私のメールに「わたしも心から同じ気持ちです」と書き添えてくださいました。「実現すれば良いなぁ」と夢を見始めています。良き出会いでした💖

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