おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2019.03.01column

ようこそ、リティ・パン監督‼

26日はアニメーション、イラストレーター、漫画家、絵本作家として著名な久里洋二先生からFacebookで友達リクエストが届いて、びっくりポン!舞い上がらんばかりに嬉しくて、お礼のメールをお送りしました。3月15日~6月30日、東京の六本木で「ユーモア展」が開催され、先生の全作品が上映されるそうです。3カ月という期間の長さにも驚きますが、作品全てを保存されていることも素晴らしいですね。せっかくいただいたご縁を大切に、期間中にぜひ観に行けたらと思っています。2度にわたって来館いただいたアメリカのイエール大学大学院生さんが久里先生に取材したいとおしゃっていたので、早速メールしたところ、5月に来日するので見に行くと返事がきました。うまくお繋ぎできたら良いなぁと思っています。

そして、26日は、もう一人素晴らしい映画監督さんともFacebookで繋がりました!!

カンボジアの映画監督リティ・パンさん(下掲写真中央)。2月23日に京都大学東南アジア地域研究研究所のマリオ・ロペス准教授(下掲写真右)のご案内で来館いただきました。

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その時、教えて貰って、早速ネットで注文した本が届きました。

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本には「リティ・パニュ」とカタカナ表記されていますが、直接お聞きしたところ、原語に近い「リティ・パン」の呼び方が良いそうです。

とっても穏やかで、微笑みを絶やさない監督さんでしたが、ロペズさんの通訳でお話を伺っていると、想像を絶する辛い体験をされています。ニュースや特集番組で見聞きしたことがあるカンボジアのポル・ポト率いるクメール・ルージュが行った大粛清。平和ボケした私たちにとっては、「恐ろしい出来事があった遠い国のできごと」という感覚の人もおられるでしょう。けれども目の前におられるパン監督は13歳の時に、両親、長姉夫婦と5歳の姪と7歳の甥、二人の姉、兄、親戚を虐殺されました。1975年から1979年までの間に粛清されたのは170万人、実に国民の三分の一にあたるそうです。ご自身はタイへ逃れることが出来て、しばらく難民キャンプで生活されました。その後はフランスに移住し、専門学校で大工仕事を学びますが、映画製作への関心から、パリの高等映画学院(IDHESC)へ入学。1990年に11年ぶりに帰国後も、パリを拠点にドキュメンタリー映画を発表しておられます。

代表作に『"NEAK SRE" Les Gens de la Rizière』、『サイト2:国境周辺にて』ほか。『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』(2003年)は、ヨーロッパ映画賞ドキュメンタリー賞ほか多くの賞に輝きました。その後もいくつものドキュメンタリー映画や劇映画を発表されています。最新作の『消えた画 クメール・ルージュの真実』は、第66回カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリに輝き、2013年度第86回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされました。クメール・ルージュが行った虐殺を土人形を使って描いた作品です。上掲本も2012年度フランス・テレビジョン・エッセイ賞ほか受賞し、2013年度に『ELLE』読者賞を受賞しています。

本の一ページに、国連が支援する刑事裁判所の拘留施設でパン監督が、ゲリラ名ドッチ(本名カン・ケ・イウ)に取材した様子が綴られています。

…「電気ショックの拷問を行わせ、電線で鞭打たせ、爪に針を刺させ、糞便を食べさせ、嘘とわかっている自白を記録させ、あげくに目隠しをして墓穴の前に座らせ、照明用の発電機がうなる中で喉をかき切らせたことに、うなされる夜はないのか」と。ドッチは目をふせ、しばらく考えてから答える。「いいや」。その後で笑ったところを撮る。(10頁)…

人間はかくも残忍な行動がとれる生き物なのだと、怖くてページを繰るのもためらわれ、まだ全てを読み終えてはいませんが、穏やかな監督の表情の奥に押し込められた心の内を思うと辛くなります。今月か来月に撮影班と一緒に京都に戻って来てくださるようなので、「その時に連れ合いの授業の中で、講演と上映会ができたら良いですね」と提案しました。今の学生さんたちはクメール・ルージュのこともご存知じゃないと思います。パン監督は、ドキュメンタリーを志す若者を育てたいと思っておられるので、丁度良いと思います。本当はうちでもそうしたお話を伺う場を設けられたらと思ってもいるのですが。

最近は海外の人に必ず「お国におもちゃ映画と映写機はありましたか?」と尋ねているのですが、パン監督は「あったかもしれないが、クメール・ルージュで何もかも無くなってしまったからわからない」とおっしゃいました。そのおもちゃ映写機に大変興味を持たれた様子。その時「ポパナ」の単語が聞こえたので、ロペズさんを通じてお聞きしたところ、プノンペンに2006年に設立された「ボパナ視聴覚リソースセンター」のことでした。パン監督は、そのセンターにこの映写機とフィルムを設置して、子どもたちに見せて体験させてあげたいと思われたようです。「ネットで探す」とおっしゃっていましたが、それで見つからない場合は、カンボジアとの友好の記念にプレゼントしようと思っています。

「ポパナ視聴覚リソースセンター」では、少しでもカンボジアに関する視聴覚資料を集めて、それらをデジタル化した後、自国の歴史を学ぼうという人々に無償で公開する活動をしておられます。そこで、ふと思い出したのは、以前「映画の復元と保存に関するワークショップ」でお話して下さった東京光音の鈴木伸和さんのこと。彼はこのセンターで研修されています。彼がカンボジアを訪問した時のレポートがNPO法人映画保存協会ホームページ載っています。

このリンク先の記事をパン監督とロペスさんにお知らせしたところ、「世の中は狭いですね」と驚いておられました。レポートによれば、「ポパナ視聴覚リソースセンター」は、パン監督とカンボジア文化芸術省がフランス政府の助成を受けて2005年に設立した施設だそうです。ロペズさんによれば、パン監督はこれだけではなく、もっと幅広く様々な活動をされているそうです。原爆投下後の広島を描いた日仏合作映画『ヒロシマモナムール』(1959年)も話題に上りましたが、「原爆」「トラウマ」「記憶」をキーワードに次回作を考えておられるようです。

出会いが嬉しいので、記念写真を撮りました。

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少年は、ロペズさんのお子さん。彼に教わって、この日帰りにマックへ寄り、 ハッピーセットを購入して「ジョージの回転のぞき絵」をGET!ゾートロープの小さな玩具です。可愛いので、早速展示品に仲間入り。

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カチンコでナイスショット!お土産に35㎜フィルム(100コマ)を購入して、今は「いかにストーリーを作成するか考え中!」だそうですから、次回パン監督と一緒にご来館の時に上映会になるでしょう。楽しみです‼

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アヴェク トゥート モナドミラシオン エメザミチエ と読むのだそうです。「感嘆と友情を込めて」 Rithy  Panh  

ようこそ、パン監督。お会いできて光栄です‼ 再会を楽しみにしています。

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