おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2022.12.12column

盛会のうちに、小津安二郎監督バースディ記念講演と上映『突貫小僧』会終了

今日12月12日は世界的に評価が高い小津安二郎監督の誕生日であり、命日でもあります。病気で亡くなったのですが、その日が還暦を迎えた日だというのが何とも凄い偶然。

来年は生誕120年、没後60年のきりがいい年回りなのですが、その前夜祭と位置付けて、一足早く小津監督をテーマに新進の映画研究者/批評家の伊藤弘了さんをお迎えして、12月11日13時半から、「サイレント期の小津安二郎ー『突貫小僧』を手がかりにー」と題してお話をしていただきました。

丁度一年前の12月に新米パパさんになられたのを知って、「おめでとう㊗」のメールをお送りしたところ、『仕事と人生に効く 教養としての映画』(2021年8月、PHP研究所)を手に遊びに来て下さいました。この本は「映画をどう見るか」を判りやすく語っていて世間の評判になり、版を重ねていますので、お読みになられた方も多いでしょう。私は彼が京都大学大学院生時代にミュージアムで知り合い、折々に「ミュージアムで研究発表をして」と依頼していましたが、一年前の再会で「どうせやるなら、12月12日小津監督記念日に合わせてしよう」と考えました。漸く彼に発表して頂く機会がやってきたことを本当に嬉しく思っています。

さて13時半、たくさんの方にお集まりいただいて講演がスタートしました。最初に簡単に小津安二郎監督と最初期のサイレント映画『突貫小僧』についてお話を頂き、その後に当館で2016年に発見され、世界的に反響が大きかったこの映像に、アメリカ東海岸バージニア州にあるランドルフ・メーコン大学のジム・ドーリング教授がピアノ伴奏を付けて下さったバージョンを上映しました。

ドーリング先生とは2017年1月17日と2019年1月23日に学生さんを引率して見学に来て下さって以来のご縁です。その年6月9日にもお越しくださいました。この日は28歳の若さで戦病死した山中貞雄監督の墓がある大雄寺(京都市内)に建つ山中貞雄碑文(小津安二郎揮毫の約600字からなる)を拓本とりする日で、丁度良いと山中碑までご案内しました。

ジム・ドーリング先生は日本映画音楽の研究を主になさっています。最初の年に「休館日に対応してくれたお礼に何か弾きます」と仰って下さったので、「それならば」と遠慮なくチャップリンの短編を集めて編集したものを上映して、即興で演奏してもらいました。それが当館のYouTubeチャンネルでご覧になれます。2019年の時にも同様に仰って下さったので、『突貫小僧』に演奏して頂いてみんなで楽しみましたが、残念ながら私が動画撮影に失敗してしまったので、後日アメリカに戻られてから録音して送って下さいました。昨日ご覧いただいたのは、そのバージョンです。何度も聞いていて旋律は覚えてしまい、私どもお気に入りのメロディです。

上映中はあちこちから笑い声が起こり、皆さんも楽しんで下さった様子でした。それから伊藤さんの講演。パワーポイントを用意してくださり、それを示しながらわかりやすくお話しくださいました。上掲写真左端後姿の男性は、立命館大学映像学科2回生。仲間3人でこの日の撮影に協力して下さいました。彼らが動画を編集して、これから動画配信を手伝ってくださいますので、少しでも多くの方にご覧いただきたく、ここでは詳しく書くのは止めておきます。

でも、少しだけ。脚本の「野津忠二」は野田高梧、小津安二郎、池田忠雄、大久保忠素からとった合成ネームだったのですね。それもドイツから入ったばかりのビールが飲みたいばかりに。「あーだこーだ」と4人で冷えたビールを頭に思い浮かべながら、楽しそうに脚本を書いた通りの、ユーモアに富んだ面白い喜劇映画になっています。

1988年にパテ・ベビー版(9.5㎜)で発見された映像には、欠落している場面があり、それを補うために松竹がタイトル用に書いたのが向かって左の画像。2016年に当館に寄贈頂いたフィルムの中から見つかった同じくパテ・ベビー版には、タイトルもありました。それが向かって右の画像です。このフイルム発見により、初めて全体像が確認できました。

講演用に伊藤さんが持参されたVHSビデオテープ。「小津の『突貫小僧』が見つかった!」のタイトルから伺われるように1988(昭和63)年の発見は大いに関心を集めたようです。このビデオ・ブックは1994(平成6)年2月23日に初版が販売されたもの。『ベルリン・天使の詩』で知られるヴィム・ヴェンダースが「小津映画は私にとって映画の聖域です」と語っています。

伊藤さんによれば小津監督が手掛けた作品は54作品あり、そのうち無声映画は34本を数え、トーキーが20本。フィルムの一部だけであれ現存しているのは37本だそうです。サイレントの半数が失われていることになります。ビデオテープに「小津の『突貫小僧』が見つかった!」のタイトルが踊るのも分かりますね。今回の催しの案内を差し上げたところ、フィルム寄贈者の方から「当方の寸志がお役に立っているようで、遠くから喜んでいます」とメッセージが届きました。改めて貴重なフィルムを寄贈頂いたことへの御礼を申し上げます。

さて、講演に引き続いて、前述したジム・ドーリング先生がピアノ演奏で、同僚の日本文化を研究されているカイル・マクラクラン先生が英語で活弁を付けて授業で上映された映像が届いていて、既にYouTubeで公開しているのですが、その映像の一部分とこの催し用に先日お二人にインタビューしてもらった映像もご覧いただきました。

ピアノ演奏をしてくださったジム・ドーリング教授。

こちらがカイル先生。授業で落語をされているのをご覧になったジム先生から声をかけられたのだそうです。「“KATSUBEN”をして、とても気持ちが良かった」と仰っていました。日本語が上手なのと日本文化に関心があることからいろんなことをよくご存じ。なので表現にも工夫が凝らされていて、面白さが伝わってきます。お二人ともこの取り組みを大変気に入っているとのことなので、他の映像も提供するとお伝えしています。海外で“KATSUBEN”が注目されることは、とても嬉しいです。

インタビューの時、進行役と通訳をしてくださった中村真由美先生。これまでも様々な場面でお力添えを頂いています。今回もありがとうございました‼

さらに、当日の参加者に11月27日立命館大学衣笠キャンパス充光館で開催された「活弁フェスティバル」に登壇された久々成秀司さんもおられましたので、急なことではありましたが、27日に発表された『突貫小僧』の一部を披露して頂きました。活弁指導は佐々木亜希子さん。当館には開館した年の2015年11月14日に開催した「第4回無声映画の夕べ」で登壇して頂きました。その時の様子はこちらで書いています。「活弁フェスティバル」のタイトルの通り、佐々木さんの指導を受けた弁士さん4名がその成果を発表する会でした。

このように活弁に関心を寄せる人が国内外に増えていることが嬉しいですね。ジム先生が「普段触れることが少ない無声映画に、“KATSUBEN”をつけることで息を吹き返らせる日本文化の伝統の素晴らしさ」を語って下さいました。丁度今、ポーランドのテレビ局とドキュメンタリー番組の制作のことで接点があるので、英語の“KATSUBEN”版『突貫小僧』の映像を送って「ポーランド語で“KATSUBEN”を付けて上映しては如何?」と勧めてみようと思います。この『突貫小僧』は短くて、しかもどこの国の人にも面白さが分かって貰える作品ですから、それぞれの国の言葉で試してみるには最適。しかもその監督が世界が評価する小津安二郎ですから、なおさら。ロシアのウクライナ軍事侵攻もあって世界情勢が緊張状態にある今こそ、喜劇映画で平和構築に貢献出来たら素敵だなぁと夢見ています。

11日の動画編集ができてUPできたら、改めてご案内いたします。どうぞ、お楽しみになさってください。

残ってくださった皆様と恒例の記念写真。年末の慌ただしい時期を迎えての実施でしたが、こうしてお集まりいただき誠にありがとうございました‼

最後にご協力をお願いしたいことがあります。1929(昭和4)年に『突貫小僧』が上映された時、どのように上映されたのかが知りたいです。短編なので他の作品と併映されたに違いありません。どんな作品だったのでしょう。当時の映画館で配られたチラシなどお持ちでしたら、ぜひお教えください。ご協力をお願いいたします‼

【12月30日追記】立命館大学映像学科2回生の平 祐慶さん、羽場功太郎さん、古井倫太郎さんが撮影し、平さんが編集してくださった記録映像が出来上がり、今日申し込んでくださった方にご案内しました。若い彼らの感性で素晴らしい仕上がりになっていたので、きっと喜んで観て頂けるでしょう。忙しい中、手伝って下さった3名の学生さんに心より御礼を申し上げます。ありがとうございました!!!!!

 

 

 

 

 

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