おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2018.04.12column

日本最初の映画スター「尾上松之助」を称える二人を繋ぐ赤い糸

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人と人をお繋ぎする役に立ちたいと開館以来ずっと思ってやってきましたが、今日はその最高の例になる出来事に出会えたとも言える日でした。

4月9日に岐阜県瑞浪市在住の元看板絵師・高木紀彦(としひこ)さん(78歳)から一通の封書を受け取りました。中にあったのが、写真の美しい手描きのオリジナルポスター集の縮小コピー。A4サイズで9枚ある紙のそれぞれ上段に「高木紀彦・尾上松之助映画オリジナルポスター集」と書いてあり、下段には「50数年の年月をかけて調査し描いたポスターです。」と書いてあります。数えると291作品あり、尾上松之助が出演した年代順に並んでいます。「目玉の松ちゃん」として親しまれた尾上松之助は、生涯に約千本出演したといわれていて、その全てで主演を務めました。しかしながら、残っているフィルムは、当館のおもちゃ映画も含めて10本もありません。

同封されていた手紙には「(略)松之助の数々の映画(活動写真)はその後の阪妻や大河内、右太衛門、千恵蔵、嵐寛らが大きく影響を受けたのは勿論のこと、その多くが踏襲されてもいます。そうした時代劇の原点ともいうべき松之助作品を描いておきたい。そして後世にも残しておきたいという思いで描き始めました。(略)」と綴られています。

フィルムがあれば、まだ楽なのですが、残っていない以上どのようにして調べられたのかが気になります。そのことをお尋ねしましたら、古い時代のことでもあり資料が少ないので、ネットオークションも活用しながら、雑誌に載っている小さな写真や絵葉書の類を集めて長い年月を費やして描いたそうです。想像で描いたものも多数含まれているようですが、見るからに労作で、しかも貴重な資料でもあると思われ、尾上松之助遺品保存会の松野吉孝さんに昨日連絡をし、今日早速ご覧いただきました。

DSC04732 (2) - コピー先ずは、松野さんが高木さんとお話されることだと勧めましたところ、双方思いが通じ合い感激の電話となりました。そのあと、高木さんから私にも電話があり「生きているうちに、本来持っていて欲しい人に、これまで書きためた作品をお渡しできることが嬉しい。ありがとう」とおっしゃいました。赤い糸というのは、男女の仲に使う言葉なのかもしれませんが、高木さんと松野さんは、出会うべくして出会った赤い糸で結ばれたお二人なのだと思います(写真は今夜京都高島屋で観てきた「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」から)。

ご家族が尾上松之助と親しかったこともあり、彼の遺品を預かるようになった松野さんは、それを保存するだけでなく、世の中の人の記憶に「目玉の松ちゃん」のことを刻んで忘れないで欲しいと懸命に努力されています。そして、尾上松之助こそ時代劇の原点だと考える高木さんも、そのことを後世に伝えようと絵筆をとり続けておられます。誰に言っても「そんな人知らん」と尾上松之助に興味を示してくださらなかったそうです。

3月21日高木さんが市川右太衛門展を見に来館されたとき、尾上松之助の名前が出たので、私共が最初に発行した『尾上松之助生誕140年記念図録』(2015年)を差し上げたところ、大変に喜んでくださいました。「きっと松野さんと高木さんを紹介したら、お互いに喜んでくださるに違いない」とその瞬間から思っていました。そして、その思い付きが、今日実現したのです。とはいえ、実際に対面されるのは4月17日までお預け。その間も高木さんは松ちゃんの絵を描きたいとおっしゃるので、松野さんは、その希望に応えて、早速何枚かの資料を速達で郵送されました。17日の報告が楽しみです。

高木さん、松野さん、それぞれから弾んだ声の電話を受け取ったところに、郵便屋さんが刷り上がったばかりの冊子を届けてくれました。

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東京国立近代美術館の研究紀要第22号。同美術館フィルムセンター主任研究員の入江良郎さんの「吉澤商店主・河浦謙一の足跡(2)活動写真時代の幕開き」と同客員研究員・本地陽彦さんの「『紅葉狩』考―その上演と、映画『紅葉狩』の撮影日に就いて―」ほか1本所収。入江さんには『尾上松之助生誕140年記念図録』に「最古の映画スター尾上松之助再発見の道のり」を寄稿していただき、その年9月に講演もしていただきました。本地さんはコレクターとしても著名で、尾上松之助に関するコレクションもたくさんお持ちです(なお、フィルムセンターは今年4月から国立映画アーカイブになりました)。

偶然とはいえ今日という日が、尾上松之助を次世代に継承したいと願う人の思いが結集したように感じられてなりません。良い一日となりました。

 

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