おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2018.05.05column

映画『タクシー運転手~約束は海を越えて~』

G.W.もあと二日。毎年、憲法記念日になると朝日新聞阪神支局襲撃事件の報道がされます。事件が起こったのは1987年5月3日、小尻知博記者が散弾銃の犠牲になり、重傷を負った犬飼兵衛記者は今年お亡くなりになりました。毎年欠かさず小尻記者のお参りに行っている友人のFacebookに、犬飼記者が当日胸ポケットに入れていたボールペンの写真が載っていて、散弾銃の球が10発当たった跡がはっきり見えました。小尻記者の体内には、散弾銃の薬莢ごと打ち込まれていたそうです。暴力で言論を封じることは、決して許されることではありません。

そして、このことを映画で強く訴えている作品を5月1日観てきました。韓国で昨年大ヒットした『タクシー運転手~約束は海を越えて~』です。私にとってこの作品は、生涯忘れられない1本になると思います。今も上映中ですので、ぜひ大きなスクリーンでご覧になってください。

4月28日、当館で長編ドキュメンタリー映画『花のように あるがままに~在日コリアン舞踊家・梨花~』を上映し、その後に感想を述べてくださった女性の言葉が強く印象に残りました。前回のブログに書いているのですが、その中で最も記憶に刻まれたのが「常に虐げられているのではなく、韓国民族の歌の中には『膝を折って生きるよりは、立ったままで死のう』というのがある。光州事件の映画や今上映している『タクシー運転手』の映画で伝えていくことは素晴らしいと思う」と話された個所。自分で振り返り記事を書きながら、「『光州事件』という言葉は知っているが、もうひとつ具体的に知らないし、『タクシー運転手』という作品も上映中なら見に行くことが可能だ。書くだけでなく、自分で見てこそ納得できる」と思い、休館日を利用して映画館に向かいました。映画は1980年5月18日から27日にかけて光州市を中心として起きた光州民主化運動の実話をもとに描いています。

「自分の目で真実を見て伝えたいだけだった。勇敢な韓国人タクシー運転手キム・サボク氏と献身的な光州の若者たちがいなければ、このドキュメンタリーを撮ることはできなかった」、2003年にソン・ゴノ言論賞を受賞したドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターのこの一言から、『タクシー運転手~約束は海を越えて~』が始まりました。

主人公はソウル市内で妻亡きあと男手ひとつで11歳の娘を育てているごく平凡なタクシー運転手マンソプ。その彼が、滞納家賃と同額の10万ウォンを貰えるという噂を耳にしてその客を乗せようと先回り。その客とはドイツ人記者のピーター。東京にある公営放送アジア特派員の彼は、韓国内で尋常ではないことが起こっていると聞き、身分を隠して韓国に入国し、光州へ向かいます。そのタクシーを運転していたのが、サウジアラビアの建設現場で覚えたという貧弱な英語を話すマンソブ。5月20日、21日二人は光州で筆舌に尽くしがたい凄惨な状況を目にします。真実を伝えようとカメラで記録し、命からがら持ち出した映像は22日午後8時のドイツで流れ、翌日に他の国でも放送されました。韓国現代史で民主化を成し遂げていく過程で発生した最も悲劇的な事件とされ、光州広域市の資料によれば、死亡者は155人、負傷者・連行・拘束者等は4634人ですが、実際はもっと多いという声もあり、正確にはどれくらいになるか未だ見当もつかないそうです。

光州市は軍によって外部と遮断され、全土に厳しい報道管制がなされました。軍・警察は民衆に向かって催涙弾を発射し、5月21日には空挺部隊が市民・学生に対して実弾射撃。それだけでなく、今年2月に韓国国防省特別調査委員会の発表によれば、当時軍のヘリコプターが上空から市民に無差別機銃掃射を加えて殺害していたことが確認されたそうです。。

長く光州事件の真実は軍事政権が隠していたので、多くの韓国人が全貌をわずかながら知ったのは民主化の時代に入った1990年代以降のことなのだそうです。4月27日に歴史的南北首脳会談が実現しましたが、一方の当時者である韓国の文在寅大統領の活躍がここでも光ります。2017年5月の大統領選で当選した文大統領は、就任直後の光州事件37周年記念式典に出席して「5.18民主化運動は全ての国民が記憶して学ぶべき誇らしい歴史」と演説しました。文大統領が光州事件特別調査委員会を設け、その成果が2月の発表に繋がったのです。朴槿恵前大統領と李明博前々大統領が追悼記念式典に出席したのは就任当初の年だけにとどまったそうです。今年ももうすぐ5.18がやってきます。文大統領の演説に注目したいと思います。

これまで5.18は国際博物館の日(だから、この日に合わせて当館を開館しました)とばかり認識していましたが、1本の映画を観たことで、新たな記念日なのだと知ることができました。忘れないでいようと思います。

とにかくタクシー運転手役のソン・ガンホさん、そして面倒見がよく情に厚い光州のタクシー運転手ファン・テスルを演じたユ・へジンさんの表情がいつまでも脳裏から消えません。実にうまい俳優さんたちです。チャン・フン監督が「限界のない演技ができる優秀な俳優さんであり、現代における唯一の“韓国の顔”とも言える俳優」と評価するソン・ガンホさんにすっかり魅了され、ほかの作品も観てみたいです。ごくごく普通の善良な市民たち、その明るい笑顔が、かえってその後の展開を思うと切なくなります。「乗客が行けと言えば、タクシーはどこにだって行く」、光州で目にした人々の様子に心を動かされ、「(どのような状況であろうとも)お客さんを連れて帰らないと」と懸命に空港を目指してタクシーを走らせる姿に、私も命を預けた乗客の気分になりハラハラしながら見入りました。

「マスコミが真実を知らせることがどれほど大切か、という部分もこの映画で重要」とチャン・フン監督。このことは、今も世界中に求められる大切さです。で、冒頭に戻って、暴力で言論を封じることは、決して許されることではないと、改めて強く思うのです。

 

 

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