おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2021.04.02column

『無法松の一生』4Kデジタル修復版と『ウィール・オブ・フェイト~映画「無法松の一生』をめぐる数奇な運命~』のBlue-ray発売‼

3月26日に㈱KADOKAWAから、上掲Blue-rayが発売されました。31日にその見本版が届きましたので、早速拝見しました。『無法松の一生』修復を担当されたのがエリック・二アリさんで、その様子を見ていた奥様で映画監督の山崎エマさんが貴重な機会だからと修復過程を記録されました。デジタル復元に貢献された元大映の宮島正弘キャメラマンを中心に、関係者にインタビューしたドキュメンタリー映画『ウィール・オブ・フェイト~映画「無法松の一生」をめぐる数奇な運命~』がその作品です。

昨年6月に山崎エマさんが来館され、連れ合いもインタビューを受けたのですが、その様子が少し映っていました。山崎監督は事前に、稲垣浩監督への聞き書き採録や戦時下の映画人たち、映画検閲や「映画法」と映画統制などについて書いた連れ合いの『映画「無法松の一生」再生』という45頁を超える論文を読まれ、併せて関連資料や本もたくさん読み込まれて取材に臨まれました。その理解力の素晴らしさ、聡明さに唯々感嘆しました。

ドキュメンタリー映画には、NHKが映像提供に協力されたそうで、ふんだんに貴重な、そして懐かしい映像が使われていました。稲垣浩監督、宮川一夫キャメラマンの映像と生の声をとても懐かしく拝見しました。そして、エマさんのインタビューに応じた稲垣浩監督のご子息・稲垣涌三カメラマン、宮川一夫先生のご長男・宮川一郎さん、阪東妻三郎さんの四男・田村亮さんらも出演されていました。さらに、フィルムが検閲され、カットせざるを得なかった稲垣監督と宮川先生の苦渋の様子を日本アニメーション協会会長古川タク先生が軽妙なアニメーションで描かれていて、それがまたとても分かりやすく、面白くできていて、良かったです。時間がない中での製作だったとお聞きしましたが、古川先生の持ち味が十二分に発揮されています。

これまでの宮川先生が撮影された作品のデジタル化にあたっては、本当に長く現場でご一緒されていた本多省三さんや田中省三さん、牧浦地志さん、渡辺貢さんが存命でしたらもう少しタッチが変わっていたのかも知れませんが、宮川先生から「ボン」と呼ばれていた宮島カメラマンの熱い思いが伝わってきました。よりよい状態で保存され、後世に継承できる作品になったことに心から拍手を送りたいです。この修復作業が日本の力で行われなかったのが惜しまれますが…。

連れ合いが慣れない論文を書いたのは、この山崎エマ監督のドキュメンタリーにも登場して語っておられる 映画評論家白井佳夫さんの言葉「この作品が軍部と占領軍(GHQ)によって二度カットされたことで、かえって園井惠子さんが演じる未亡人に対する身分違いの阪妻さん演じる車夫の思いの純粋さが強く感じられるようになり、よりピュアな作品になった」という意見に、「それは違うだろう」と思ったからだと申します。ドキュメンタリー映画には脚本家の伊丹万作さんについて描かれていませんが、伊丹さんは「戦争という非人間的な時代に、無法松という無骨な男の生身の人物像を描きたかった。献身的な美談ではない」と言っておられます。本に書かれた伊丹さんのこの言葉を知って感動し、論文を書こうと思ったと言います。宮川先生存命中に、先生から資料の整理を手伝って欲しいと依頼された折りに、見つかったフィルムの断片や撮影記録(勧進帳を模して肝心帳と呼んだ撮影計画表)などが、論文執筆に大きな意味をもたらしました。

発売されたBlue-rayには、山崎エマ監督『ウィール・オブ・フェイト~映画「無法松の一生』をめぐる数奇な運命~』も収録されています。そして、連れ合いが書いた論文「映画『無法松の一生』再生」もブックレットとして付いています(上掲写真)。ぜひお買い求めいただいて、阪東妻三郎さん主演のこの名作を楽しみいただければと思います。

あとさきになってしまいましたが、今年は時代劇の大スター阪東妻三郎さんの生誕120周年。それを記念しての『無法松の一生』初Blue-ray化です。今ミュージアムでは、日本最初の映画スター尾上松之助さん最晩年の『(実録)忠臣蔵』(1926年)のペン画展をしています。95年前、当時15歳だった少年が描いた『(実録)忠臣蔵』の数々の場面をご覧頂けます。その松之助さんが晩年に「これからは阪妻の時代だ」と語ったそうです。流動的でダイナミックな演技をする阪東妻三郎さんは剣戟王として大ブレイクし、「阪妻のまえに阪妻なし、阪妻のあとに阪妻なし」とまで言われ、一世を風靡しました。尾上松之助さんが予言した通り、新しい時代劇の中心的存在となりました。ぜひ、修復された彼の代表作『無法松の一生』をドキュメンタリー映画共々ご覧頂きたいです‼よろしくお願いいたします。

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