おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2022.08.22column

坂本頼光さん活弁で見た『吸血鬼ノスフェラトゥ』

7月30日東京から人気活動写真弁士の坂本頼光さんにお越しいただき、天宮遥さんのピアノ演奏付きで上映した『吸血鬼 ノスフェラトゥ』は、満員のお客様で盛会のうちに終了しました。

日々の雑用に追われて、その「楽しかった‼」という思い出は今も鮮やかに残っているのですが、細かいことが少しずつ遠くにいっちゃっていますので、友人の感想を載せて、振り返りに代えさせていただきます。悪しからずご了承くださいませ。

………早々に予約していたドイツ表現主義の作家として知られるフリードリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ監督(1888~1931)の幻の代表作『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)の上映会(京都・おもちゃ映画ミュージアム)に。いわずと知れたブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』が原作だが、原作者の許諾を得ていなかったことから「ドラキュラ」を「ノスフェラトゥ」に変更、場所もアイルランドからブレーメンに変えたものの大筋は変わっていないとストーカーの死後、妻に著作権侵害で訴えられ、全フィルムの廃棄を命じられた。そのために日本はもちろん、欧米でもほとんど未公開なのだそうで。…ところが、僅かに“海賊版”フィルムは残ったということで、今回上映されたのは米国で流通した8ミリフィルム(水上浩氏のコレクション)とのこと。
 
坂本頼光さんの見事な活弁と、息の合った天宮遥さんのピアノで再現された『吸血鬼ノスフェラトゥ』は、想像以上にしっかり作りこまれていて、ネガを反転させたり、コマ落としで速度を早く見せたりと、100年前の作品とは思えない効果があちこちに用いられていた。
 
吸血鬼を演じたマックス・シュレックの存在感も素晴らしい。彼が本当に吸血鬼だったという設定の映画『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000)が製作されたのもむべなるかな。
 
伝染病の恐怖もまた描きこまれたこの作品で首筋が涼しくなった?あとは休憩をはさんで趣向をがらりと変えて、河部五郎と大河内傳次郎が弥次喜多に扮した池田富保監督『弥次喜多 尊王の巻』(1927)と『弥次喜多 伏見鳥羽の巻』(1928)、これまた無声映画なのに笑えちゃう、坂本頼光さんの大河内傳次郎のモノマネも、今ではわかる人にはわかるという(笑)
 
きょうは行きたいイベントが目白押しだったけど、予想通りこの上映会も素晴らしい時間でした。………
 
大牟田さんがFacebookでその夜のうちに綴られた文章を、許可を得て転載しました。「日記を書くようなつもりで」日々の出来事を文字で書き残しておられる様子は、筆が遅い私にはとてもまねができません。羨ましく思うと同時に、記録という面で大いに助けられています。なので、大牟田さんから参加の申し込みがあると条件反射で「やったぁ~」と歓喜の声を上げてしまう私です。
 
 
もうお一人、知人のMさんから。
………こんにちは。7月30日にミュージアムを訪れて愉しい映画を見ることができました。
 実は前日の29日にも、京都みなみ会館でヴェルナー・ヘルツォーク監督『ノスフェラトゥ』も見ていたので、二つの作品を見比べることができました。ヘルツォーク監督のは、滅亡や疫病と死、そして死ぬことのできない者の悲しみといったものが美的に描かれていました。ホラー映画はまるで見れない人間ですが、この作品はホラー映画ではない芸術品ではないのか、と思ったのです。

 そこで30日のムルナウの『ノスフェラトゥ』ですが、こちらは不気味さが際立つ作品でした。弁士の語りと音楽が加わり、おどろおどろしい雰囲気が抜群でした。血や暴力、グロテスクなものが苦手ですが、そうした人間でも不気味さを堪能しながら見ることのできる作品として素晴らしいです。

 余興としての弥次喜多については、少し冗長で演技過多な気はしました。1928年の正月映画として作られた作品で、日本でも歴史特に近代史と建国に関する事件を茶化して描ける時代がかろうじてあったのだと現代社会の混迷を考慮すると、少し感心します。30年代になって記紀神話の絶対化や天皇機関説の否認、また治安維持法的統治の徹底化といった問題が次々に進んでいったことを思えば、芸術表現をできる自由というのは貴重でしょうね。………
 
 
『吸血鬼ノスフェラトゥ』の8ミリを寄贈して下さった水上浩さんについては、前もって、こちらのブログで詳しく紹介しました。上掲写真天宮遥さんの背後に掲示してしているのが水上さんから届いた連載記事『今も映画少年』です。連日続いた猛暑と爆発的に増えている新型コロナウイルスのことを考えて、「できたら観に来て欲しい」「できたら観に行きたい」双方熱い気持ちでしたが、見送らざるを得なかったことがとても残念でした。いずれ世の中が落ち着き、気候のいい季節にまた計画できれば、その時こそお互い元気で再会を喜び合いたいです。
 
そして、実施日間際になって、「ノスフェラトゥは暗い陰気な話だから、おまけにアハハ、と笑えるような話を上映して免疫力アップにつながるイベントにしたい」といつものように無責任なことを思い付き、頼光さんに提案。その結果が日活のトップスターだった尾上松之助後継者だと目されていた河部五郎が“弥次さん”を、第二新国劇出身で日活に移って頭角を現した大河内傳次郎が“喜多さん”を演じた池田富保監督『弥次喜多 尊王の巻』(1927、所蔵映像は19分20秒)と『弥次喜多 伏見鳥羽の巻』(1928、同17分20秒)でした。いずれも当館所蔵パテ・ベビー版映像(9.5㎜)ですが、本当は3部作で『弥次喜多 韋駄天の巻』が真ん中の作品としてありました。どこかの家や蔵から、同じように家庭用に販売されたフィルムが見つかれば良いのですが。。。
 
『弥次喜多 伏見鳥羽の巻』の一場面。向かって左から河部五郎、真ん中が新妻四郎、右が大河内傅次郎。
 
頼光さんからおまけ上映の許可を得たこともあり、大河内傅次郎のお孫さんに早速ご招待のメールをお送りしたのですが、こちらはご多忙なのでしょう、お運びいただけませんでした。
 
 
伊藤大輔監督『忠次旅日記』や『長恨』に出てくる大河内傅次郎と全く異なった喜劇役者ぶりが、面白いです。“お孫さんに一度活弁付きで大河内傅次郎の無声映画を観て貰いたい”というのがご縁を頂いてからの密かな私の願いなのです。
 
 
お決まりの集合写真。長らく掲載が遅れて申し訳ございませんでした。皆様、お楽しみいただけて何よりでした。
 
 
爽やかな私服姿に着替えた頼光さんに、「そういえば、頼光さんのサイン色紙がない」と、またもや無茶ぶりを発揮してサインをねだったところ、『吸血鬼 ノスフェラトゥ』をお客様がご覧になっている様子をサササッーと黒い油性ペンを走らせて書いてくださいました。さすが若い頃に、漫画家の水木しげる先生に弟子入り志願されただけのことはありますね。
 
その水木しげるさんをテーマにしたテレビ番組「水木しげるの妖怪バンザイ!」が8月26日23時からBSプレミアムで放送され、頼光さんはナレーション及び番組内で活弁士として登場されます。ぜひご覧ください‼
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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